SpotifyのForm 20-F[1] https://s22.q4cdn.com/540910603/files/doc_financials/annual/SPOT_20F_Master-Master_Exhibits_HTML.pdf (日本でいう有価証券報告書)を眺めていると、末尾のほうのExhibit 8.1の箇所に世界各国のSpotify子会社が列挙されていた。
カナダのSpotify Canada Inc.や日本のSpotify Japan K.Kはわかりやすい。ユーザー向けのウェブサイトには表示されていないため、日本法人はまだないのかと思っていたが20-Fに記載されているところを見ると会社自体はあるようだ。
フランスのSpotify France SAS(société par actions simplifiée)やドイツのSpotify GmbH(Gesellschaft mit beschränkter Haftung)はおなじみだが、ロシア法人は「Spotify OOO」というらしい。「OOO」は「オー・オー・オー」で、別に検閲削除されてしまったというわけではない。もはやソ連時代ではないのだ(一応)。
これは気になった。そもそもロシアでも法人化しているというのが驚きだ。ソ連崩壊から30年以上経っているとはいえ、旧共産圏の親玉だ。
ネット経由で音楽配信するだけなのだからわざわざその国に法人を設立する必要もないんじゃないかと思ったりもするが、スポティファイは国連加盟国全てに子会社を持っているんじゃないかというくらい各国に会社を作っている。音楽の著作権はいろいろと面倒だから、アメリカからネット経由で音楽を聴けるようにすればそれで済むという話でもないのかもしれない。その辺りは知的財産権の分野で面倒な込み入った話がありそうだ。
ロシアのOOOの話であった。
ネットで調べてみると、OOOはロシアにおける有限責任会社で、общество с ограниченной ответственностьюの頭文字を取ったものらしい。общество(オープシェストバ)は「会社」、ограниченнойはограниченный(アグラニーチヌイ)は「限られた・わずかな」という意味の形容詞で女性対格、ответственностьюはответственность(アトベーツィトベナスチ)「責任」の対格形だ。cは「〜と共に」を意味する前置詞で対格支配なので、以後に続く形容詞・名詞は対格形となってобщество с ограниченной ответственностью。直訳すると「限られた責任を伴う会社」、”Limited Liability Company”ということになる。
これとは別に、公開会社か非公開会社かという違いを表す概念として、Open Joint-Stock Company(Открытое акционерное общество(アトクリュイタエ・アクツィオネールナエ・オープシェストバ)、OAO)とClosed Joint-Stock Company(Закрытое акционерное общество(ザクリュイタエ・アクツィオネールナエ・オープシェストバ)、ZAO)という名称がある。これらはほぼ英語からの逐語訳だろう。ちゃんとした読み方はポッドキャストで紹介する予定なので聴いていただけると幸いである。
ソ連が崩壊し、国有企業から民営化がされてまだ30年ちょっとしか経っていないのである。ロシアは法人税が一応17%と低いほうだが、ロシアで商売をするには法人税ならぬプーチン税がいろいろとかかるであろうから、登記上の本店を置いておくにも少し不便なところである。もちろんスポティファイは節税のためにロシア法人を持っているわけではないが。