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2019年8月21日付の日本経済新聞朝刊に、「米企業「株主第一」に転機 背景に社会の分断」という記事が出ていた(URLはこちらhttps://www.nikkei.com/article/DGKKZO48750920Q9A820C1EA1000/。)
記事によれば、「米主要企業の経営者団体、ビジネス・ラウンドテーブルは19日、従来の「株主第一主義」を見直す宣言をまとめた」という。コーポレート・ガバナンスという観点から見ればけっこう重要な出来事かもしれないと思い、Business Roundtableで検索してみると、確かに2019年8月19日付で”Business Roundtable Redefines the Purpose of a Corporation to Promote ‘An Economy That Serves All Americans’”というページがヒットした。
リンクをたどり、”Our Commitment”というページの下の方に列挙されているCEOの署名を見ていくと、AmazonのJeffrey P. Bezos、AppleのTim CookやGoldman Sachs GroupのDavid M. Solomonが名を連ねている(FacebookやAlphabetの名前がないのも興味深いところではある)。合計で181名のCEOが連名で署名しているということらしい。
とりあえず件の「株主第一主義を見直す宣言」を訳出してみたので、以下に掲載しておく。今ひとつ日本語にしづらい箇所もいくつかあったが、そのような箇所は脚注の形で注記してある。
翻訳
我々の民主制[1]democracy。-cracyは「政治体制」を意味するものであり、-ism「主義」とは異なるため、「民主制」とした。における自由及びその他の恒久的な原理に基礎を持つ米国の経済的モデルは、競争、消費者の選択肢及び技術革新を促進しながら、数世代にわたり生活水準を向上させてきた。米国のビジネスは、その成功に対する重要なエンジンであり続けてきた。
しかしながら、我々は多くの米国人が奮闘のさなかにあるということを理解している。あまりにも頻繁に、きつい仕事は報われず、労働者が経済の早いペースの変化に適合するのに十分なことがなされてこなかった。会社が、我々の制度の成功は包括的な長期の成長にかかっているということを認識し損ねたならば、多くの人が社会における大規模な雇用者らの役割について妥当な疑問を抱くだろう。
これらの懸念を念頭に、ビジネス・ラウンドテーブルは会社の役割についての原則の現代化に取り組んでいる最中である。
1978年以来、ビジネス・ラウンドテーブルは定期的に、会社の役割についての表明[2]原語はlanguage。文言・表現などの訳語も検討したが、ここでは表明とした。を含む「コーポレート・ガバナンスの原則」を発表してきた。1997年以降に発表された各版は、会社は原則的にその株主に奉仕するために存在すると宣言してきた。我々及びフェローCEOらが日々、その長期的な利害関係を分離することのできないすべてのステークホルダーにとっての価値を創造する努力のやり方を、会社の目的に関するこれらの表明は正確に描写していないということが明らかとなった。
したがって、我々は以下の、以前のビジネス・ラウンドテーブル声明に取って代わり、より正確に、すべての米国人に奉仕する自由市場経済に対する我々の献身[3] … Continue readingを反映した「会社の目的に関する声明」を提供する。この声明はビジネス・ラウンドテーブルの、包括的な繁栄を確かなものにするための努力における一つの要素のみを表現したものであり、我々はさらなるものに対して挑戦し続ける。
我々は会社のCEOとしての役割に献身するのと同様に、その他の役割の従事者に対してもその役割を果たすように求める。とりわけ、我々は主要な投資家に、従業員及びコミュニティに投資することによって長期的な価値を創造する会社を支持するように強く求めるものである。
会社の目的についての声明
米国人は各個人に勤勉と創造性によって成功し、意味と尊厳のある生活を送ることを可能にする経済を当然享受するべきである。我々は、自由市場主義はよい職、強く持続する経済、技術革新、健全な環境及びすべての人にとっての経済的な機会を生み出すための最高の手段であると信ずる。
ビジネスはその経済において、職を生み、技術革新を促進しかつ生活に欠かせない財とサービスを供給することによって欠かすことのできない役割を演じている。ビジネスは消費財を生産・販売し、装置及び輸送機器を生産し、国防を支え、食料を生産し、医療を供給し、エネルギーを生み出し輸送し、経済成長を土台から支える金融・情報通信及びその他のサービスを提供する[4]この箇所は” and offer financial, communications and other services that underpin economic … Continue reading。
個々の会社はそれぞれの自社の会社目的に奉仕する一方、我々はすべてのステークホルダーに対する基礎的な献身を共有する。すなわち我々は以下のことに献身する:
・消費者に価値を届けること。顧客の期待に応え、または上回ることにおいて主導的な立場に立つという米国会社の伝統を促進する。
・従業員に投資すること。これは彼らに公正に報い、価値ある便益を提供することに始まる。これはまた、迅速に変化する世界に適合した新しい技能を身につけることを助ける訓練と教育を通じて彼らを支持することを含む。我々は多様性及び一体性[5] … Continue reading、尊厳と敬意を促進する。
・サプライヤーを公正かつ倫理的に扱うこと。我々は、我々の使命を果たす助けとなる大小の他の会社のよきパートナーとしてあるように努める。
・我々が働くコミュニティを支える。我々はコミュニティの人々を尊重し、ビジネス全体において持続可能な業務を喜んで受け入れることによって、環境を保護する。
・会社に投資し、成長し、革新することを可能にする資本を供給する株主にとって長期的な価値を生み出すこと。我々は透明性及び株主と効果的な関係を築くことに献身する。
すべてのステークホルダーが非常に重要である。我々は会社、コミュニティ及び国家の将来の成功のために、彼ら全員に価値を届けることに献身する。
References
↑1 | democracy。-cracyは「政治体制」を意味するものであり、-ism「主義」とは異なるため、「民主制」とした。 |
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↑2 | 原語はlanguage。文言・表現などの訳語も検討したが、ここでは表明とした。 |
↑3 | commitment。一般には「コミットメント」とされるが、ここでは株主至上主義からの脱却という観点から社会的な貢献というニュアンスを含む「献身」という訳語を充てた。以下、動詞のcommitも同様。 |
↑4 | この箇所は” and offer financial, communications and other services that underpin economic growth”とあり、financialの文法的な役割が不明瞭であるが、financial,communications and othersがservicesを修飾していると捉えて訳した。 |
↑5 | inclusion。「企業内すべての従業員が仕事に参画する機会を持ち、それぞれの経験や能力、考え方が認められ活かされている状態」(https://www.kaonavi.jp/dictionary/inclusion/ 2019年8月21日参照。) |