TASSによれば、肥料価格の高騰を受けて、ロシアは国内農業の保護のために硝酸アンモニウムの輸出を4月2日まで禁止する。硝酸アンモニウムはアンモニウムイオンと硝酸イオンの結合した化合物で、窒素を34%含有する農業用高濃度窒素肥料として用いられる。年間の世界生産量は約2,000万トンで、ロシアがその3分の2を占めている。国際連合農業機関によれば2022年の窒素肥料全体の総生産量は1億9,000万トンと推計されており、硝酸アンモニウムの全体に占める割合は比較的小さいため直接的な影響は小さいかもしれないが、食糧・肥料価格の高騰に間接的に響いてくるだろう。(Russia introduces export ban on ammonium nitrate for two months — government)(Russia bans ammonium nitrate exports until April to support domestic farmers

 現在世界的なインフレの中で肥料価格や、肥料となる作物の価格も高騰している。とうもろこしの先物は現在620ドル前後だが、2020年夏に比べると2〜3倍に上昇している。

https://www.barchart.com/futures/quotes/ZCH22/overview

 また鹿児島県でアスパラガス専業農家をされているアスパラ屋仁左衛門という方が投稿している動画(2022年1月10日投稿、47万回以上再生)によれば、肥料価格はここ1年で急騰しており、1,280円くらいだったものが1,800円ぐらいになり5割以上高騰しており、3〜5月にかけてさらに改正(おそらく当然高騰化)するらしい。さらに、向こう1年にわたる予約注文をしたものの、業者からは「価格が高騰したら上がることもご了承ください」と言われているようだ。

 これを金融市場的に考えてみると、先物買いが約定しなくなっているということだ。先物というと投機的なイメージが強いが、本来は将来の価格変動に備えるリスクヘッジのための金融契約だ。たとえばリンゴ1個がいま100円だが、1年後には300円くらいまで高騰しているかもしれない。買い手は安く買いたい一方、売り手は価格が上がれば喜ばしいもののあまり高騰すると買い手が見つからないリスクがある。これを回避するために、たとえば1年後にリンゴ1個を250円で売買する契約をあらかじめ結んでおく。これが先物だ。これが約定しないということは、業者の側もさらなる価格上昇を予測しているということである。

 ロシアが硝酸アンモニウムの輸出を禁止しただけであればあまり気にしなかったのだが、今回この話題を取り上げたのはタイミングよくノースカロライナ州ウィンストンセーラムの肥料工場で火災が発生したニュースが出ていたからだ。CNNによれば火災発生の時点で600トンの硝酸アンモニウムと5,000トンの完成肥料があった。古くはナチス時代の国会議事堂火災から、最近ではルネサスエレクトロニクスの火災、日立物流の倉庫火災など、怪しげな火災には注意が必要だ。(6,000 urged to evacuate as North Carolina fertilizer plant fire threatens an ammonium nitrate explosion