・How “Workless” Men Are Driving America’s Labor Crisis
アメリカではしばらく前から、人々が働かなくなっていることが問題視されている。下のグラフはアメリカの労働参加率の統計だが、2001年ごろの67%をピークに2020年にかけて下落傾向にあった中、パンデミックの発生によって一時60%まで落ちた。2021年は欧米各国で大量に人々が仕事を辞めたため、大離職/大退職時代(Great Resignation)と呼ばれるようになった。

もともと低賃金だったサービス業や飲食業では店自体が営業できなかったり倒産してしまったりしたし、それ以外の業種でも終業後の飲み会や会合、面談やミーティングなどが制限されたことにより、従業員の会社に対する忠誠心が著しく損なわれた。さらに政府による給付金が、アメリカ人の勤労意欲を破壊してしまった。金融緩和のせいで株価が爆上がりしているため、働いて賃金を得るよりももらった給付金を株に投資したほうが遙かにリターンが高いという狂った状況になっている。一部の店舗では面接に来るだけで50ドルを支給するようなところさえある。
・面接を受けるだけで50ドル支給…経済再開のアメリカ、飲食店の人手不足が深刻に
このように人々が働かないので賃金水準はどんどん上がる上、それでも人手が確保できない業務では値上げを余儀なくされるためインフレを悪化させる大きな原因となっている。
GAFAの一角を占めるアマゾンでも例外ではなく、ブルームバーグの記事によればアマゾンの離職率は「危機的」な水準にあり、その原因は報酬体系にあるようだ。アマゾンの報酬体系は、ベースの給料の上限を16万ドルに制限し、それ以上の部分はストックオプションでまかなう構造になっているため、株価が上昇している間は良いが、最近のように株価が下落し始めると途端に従業員にとって働くインセンティブが消失してしまう。従業員の個人的な状況(疾病や居住地、家族関係など)を一切考慮しない業務体系になっているため、従業員同士の文化的な軋轢も問題になっているという。これまでは株高で報酬が多かったので表面化しなかった問題が一気に噴出している。株価経営がここまで来たか、という感じだ。行きすぎた金融緩和が経済を破壊している。
・バーンアウトしたアマゾンの従業員は大退職時代を歓迎する(Bloomberg)
記事の中では大退職(Great Resignation)どころか、大脱出(Great Exodus)だと言われているくらいだ。Exodusというのは旧約聖書の出エジプト記のことで、古代エジプトで奴隷として虐げられていたユダヤ人がモーゼに率いられて脱出する顛末を記した書である。
このインフレを演出するために、人々に労働を忌避させるためこれまで長い間劣悪な労働環境に置き続けてきたと邪推できなくもない。マルクスの理論によればプロレタリアとして搾取されていることに気づいた労働者が革命を起こして体制を打倒することになっているが、現実の経済では経済成長に伴って「普通に働いてそこそこ良い暮らしをする」労働者が出てきた。これはおかしいというので、まじめに働いて普通に生活している労働者をプチブルと呼んだりプロレタリアとしての意識が足りないとか言ったりして批判(ジョルジュ・ルカーチ)し、意識が足りないなら変えてやらねばということで人間の考えや意識を操作するために幼少期のトラウマにすべての原因があるとする精神医学まで作ってきたのが連中である。
レビューに鋭い内容が書かれている:
物象化がなぜ大切かというと、労働者自身が物象化された存在であることを自覚すれば、労働者の団結と革命の実践につながると考えられるからである。ルカーチは、1918年のハンガリー革命に一時は成功するも、たった133日で挫折した経験がある。亡命先のウィーンで、再起を願って本書は書かれたのだろう。(強調引用者)
以上のような歴史があるので、私はGreat Awakening(大覚醒)とGreat Reset(グレートリセット)というのは同じことだと思っている。人々がこれまでの権威・体制の欺瞞に気づくということが革命の本質的な部分であり、結果的にリセットすることになるからだ。「気づいた」のではなくて「気づかされている」と考えるほうが正確なのだろう。Great ResetというテーゼとGreat Awakeningというアンチテーゼが止揚されてなにか別の、たとえば新世界秩序にアウフヘーベンするというヘーゲル弁証法である。ヘーゲル哲学は、意図的に対立を創り出して双方を支配するという政治技術に過ぎないのだ。
さて日本では、無症状でもコロナ感染者とされたり、感染者とされた人が自発的に濃厚接触者を告発できるような体制にしようとしている。「無症状感染者」とかもはやコントだが、こうしたことの背景にあるのは労働環境の破壊だ。日本でもコロナ陽性や濃厚接触者になればおおっぴらに仕事を休めるうえに、働くよりも多額の給付金がもらえるため、大勢がPCR検査に長蛇の列を作っている。

自分で作物を作って、背負ってユーラシア大陸に行商にいくのがいちばんいい生き方かもしれない。