今回は、デザン・シーラ&アソシエイツというシンクタンクが2022年5月3日に発表した「アジアの輸出者たちはロシアの消費者市場にアクセスしようと殺到している」という記事の紹介です。
同社は中国、ロシア、インド、ASEAN諸国を含むユーラシア大陸に28の事務所を有し、海外の投資家向けに同地域に関する市況分析、法務・税務、法令遵守等に関するコンサルティングを通じて進出のアシストをしている企業です。主に投資家・事業者向けに、イデオロギー抜きに情報を提供している組織ですので、今回の翻訳の対象読者も同様に投資家・事業者向けとなっております。

記事のリンクはこちらです。https://www.russia-briefing.com/news/asian-exporters-scramble-to-access-russian-consumer-markets.html/

記事の翻訳は以下からです。

アジアの輸出者たちはロシアの消費者市場にアクセスしようと殺到している_2022年5月3日/クリス・デボンシール・エリス、ロシアブリーフィング

ロシアは4,300万人の中産階級消費者基盤を持ち、彼らは中国、インド、ブラジル、南アフリカ共和国、そしてアジアのほとんどの国よりも所得水準が高い

ウクライナにおける最近の出来事や、結果として引き起こされた、主としてEUの事業者によるロシア消費者市場からの撤退は、それが制裁によるものであれ、政府の圧力またはメディアの論調によるものであれ、同市場に大きな需給ギャップを生み出し、主としてアジアの輸出企業がその間隙を迅速に埋めようとしている。ほとんどの西側諸国のロシアに対する制裁はエネルギーに焦点を当てたものであるため、非エネルギー部門における製品をヨーロッパ人が空白にした市場に販売する機会を提供している。我々は以下のように状況を分析した:

ロシアは何を輸入しているのか?

ロシアはしばしばエネルギー大国と見做され、じっさい輸出における53.8%はエネルギー部門であるが、これは輸入には当てはまらない。機械類、装置、輸送機器が2021年のロシアの輸入の49.18%を占めている。化学製品、ゴム製品は二番目に大きな輸入商品であったが、輸入商品全体の5分の1未満(18.32%)しか占めていない。皮革原料、毛皮、またそれらを用いた製品は全輸入量の0.44%である。2021年の輸入の完全な内訳は下のグラフの通りである。

これらの輸入は全体で3,180億ドルに相当し、西側によって放棄されたロシア消費者に接近する大きなギャップがあるということを意味している。

2022-2023年のロシア消費者市場

直近のロシアの外交政策の変化によって、貿易の水準と確実を求める消費者がどのように感じるかが影響を受けた。政策の変化はロシアにおいて予期せぬ帰結をもたらし、愛国心とブランド意識の間で引き裂かれた所得の高い消費者たちが、シャネルのようなものよりもロシア製品を選ぶようになった。これは今のところロシア人の常軌を逸した消費者行動となって現れているが、市場が順応するのには時間がかかるだろう。このことは何が通常の消費行動パターンとして浮かび上がってくるのか、消費者行動が落ち着くのを待つ間に調査を行う十分な時間がまだあるということを意味している。
(訳注:「常軌を逸した消費者行動」とは、ロシア人インフルエンサーがシャネルのバッグを枝切りバサミなどで切断する動画をSNSに投稿していることを指す)



常軌を逸したロシアの消費者行動

OECDによれば、中産階級に属する人の定義はその国の所得の中央値の75%から200%の幅に収まる所得を得ている人である。ロシアに関して言えば、ロシア最大の民間商業銀行であるアルファバンクの2019年の研究によれば年間31万2,000ルーブルから84万ルーブルであり、この所得水準を得ている人はロシアの人口の30%に相当し、数にして4,300万人である。

制裁のために、比較として米ドルやユーロを用いることにはほとんど意味がない。しかし中国人民元では、この水準は3万元から100万元に相当し、インドでは、35万ルピーから120万ルピーに相当する。

中国の平均的な中産階級の所得はロシアのそれよりも低いということは特筆すべきである。またインドにおいては平均的中産階級の所得水準はロシアの20%しかない。ロシアの一人あたり国民総所得をBRICKS諸国と比較したものが下記グラフである。これは、BRICS諸国で2030年までに世界貿易の50%を占めるようになると推計されていることからも重要である。

潜在的な自由貿易利益

ロシアはユーラシア経済連合(EAEU)のメンバーである。EAEUはアルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギスタンを含み、貿易機会を提供している。重要なこととして、近年非常に活発に活動しイラン、セルビア、ベトナムと自由貿易協定を締結した。これらのすべての国とロシアは貿易高をここ2-3年で大幅に増加させている。

EAEUの影響力はそれにとどまらない。バングラデシュ、ブラジル、エジプト、インド、インドネシア、パキスタン、タイ、そしてとりわけアラブ首長国連邦といった重要な国々がみなEAEUとの自由貿易協定を交渉している。西側の反ロシア論調に苦しめられている国は一つもない。

解決するべき課題
西側によってロシアに課された制裁のために解決されなければならない支払手段の問題はあるだろう。しかし、制裁は完全なものではなく、すべてのロシアの銀行が影響を受けているわけではない。ロシアからの暗号資産チャネルを利用した支払も主要な貿易決済として登場し始めている。この記事の前提としては輸出品が制裁対象ではないということがあるが、ある種の製品は「デュアルユース(軍民両用品)」の定義に該当し、禁止されるおそれがある。ロシアにおける物理拠点を構えるという煩雑さを選ぶよりも、現地の代理店経由で貿易する必要があるだろう。これらの問題すべてに関しては、簡便な調査によるものに過ぎないため、さらなる詳細に関して興味のある輸出者は russia@dezshira.com まで一報いただきたい。

ここまでです。
最後にも書かれているとおり状況の素描にすぎませんが、日本で普通に過ごしていると出会わない事実や情報ばかりではないでしょうか。
日本における対露・ベラルーシ禁輸措置については、経済産業省のページに書かれています。

https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/trade_control/01_seido/04_seisai/crimea.html

またJETROにも貿易投資相談窓口があります。

https://www.jetro.go.jp/services/advice/

気になる方は問い合わせてみてはいかがでしょうか。