ビジネスインサイダーに、「アメリカでは3000万人の労働者が「自分の職場は有害」と考えている…ダメな職場を作り出す3つの要素とは」という記事が出ていた。ビジネスインサイダーはアメリカの話だが、日本でも職場環境は悪いというのはみんなこっそり思ってることだろう。日本人労働者は忠誠心が高くよく働き・・・というのはもはや幻想で、アメリカ人以上に仕事や会社を憎んでいることがギャラップの調査で示されている。あんまりこういう調査というのはアテにならないというのが私の基本的なスタンスだけれども、これに関しては自分自身の経験や身近に聞く話、実体験などと照らし合わせると「まあそうだろうな」ということで納得がいく。

日本人は世界一、自分の会社を嫌っている

こうなってしまう原因はいろいろあるのだろうけれども、寝そべり族を始め世界中で労働を忌避するムーブメントが起こっていることからすると、国民や民族の性格や国民性、国ごとの経済力の違いや産業構造の違いなどの要因を超えて、インターネットとデジタル技術の発達によってそもそも「近代的な労働」なるものがもはや時代遅れになっているのではないかと思う。「近代的な労働」とは工場労働といってもいいし、サラリーマンといってもいいし、要は産業革命以降に現れてきた働き方や労働の形態を漠然と指す。

日本でいうサラリーマンは明治維新ののちに生まれたもので、それ以前は家業に従事したり金持ちの家に奉公しに行って住み込みで働くというのが標準だった。才覚に恵まれた者は官吏になって宮仕えに出たりということはあったかもしれないが、官僚以外の庶民は基本的には家業ないし奉公がほとんどだったろう。明治に入ってはじめて、「会社に勤めに出る」という形態が生まれた。会社勤めのことを「宮仕え」というように、かつては一部の官僚だけがやっていた「出仕」を労働者みんながやらされるようになったのが近代以降だということもできるだろう。

明治から昭和まで、つまり「近代的な労働」が華やかなりし時代には、仕事や職業に関する情報にアクセスするためには会社に行かなければならないし、そもそも会社に所属していなければならなかった。会社に属していなければ職業的な技術が身につかないし、会社の看板がなければ仕事にもありつけない。人脈や業界の情報が得られるためにもコネが必要だろう。

そういう時代をインターネットが変えた。情報は玉石混淆とはいえ、ネットに無料でいくらでも転がっているし、さらに充実した有料のセミナーなども転がっている。もちろん本当にその道のプロになるためには不十分かもしれないが、日常のルーチン的な仕事やとりあえずの仕事をこなすために必要な知識もツールもほとんど無料ないし非常に安価に手に入るようになってしまった。

一番端的な例は動画制作だろう。20年前に動画を作るといったら、数千万円単位でカネのかかる話だった。そもそも動画を撮影するビデオカメラが高価だし、映像を保存しておくテープも高い。パソコンはもっと高価だし、ソフトの使い方を学ぶのも一苦労だった。こういう時代には、放送局やメーカーなんかに所属して、会社のアセットを使わせてもらうのでなければ動画を作ることはできなかった。ところが今では誰でも簡単に動画を撮影できるし、編集アプリも低価格で高機能なものがたくさん出ている。しかも販路もある。昔はテープに焼いて、ビデオ屋などの販路も開拓する必要があったが、いまではYouTubeやVimeoで瞬時に公開できる。それで儲かるかとか仕事になるかということは別にして、動画を作って公開するということは誰でもできるものになってしまった。

動画以外にも、かつては情報やツールを独占できていた業界・会社でその独占が崩されてしまった。つまり基本的には、近代的な会社組織なるものの存在意義が薄れてきているのだ。もちろん現実的には責任問題をどう処理するかとか、国の規制のもとでいろいろと事業活動を行うためには会社にしておかないといけないとかの問題があるので、実務的には明治以来の会社があるわけだが、そこで旧来の会社的なモノの考え方をすると職場は最悪になってしまう。情報を共有するコストが高かった時代の名残であるホウレンソウやら会議やら、打ち合わせやら、そういうものは現代においてはほぼ意味がない。仕事する各人がネットやら何やらで情報を集めて、自分の好きなツールを使って仕事を進めていけばいい。

まあそれでも多人数が集まって仕事する以上、心理的な一体性や友好関係を築いたほうがいいのでミーティングをやるというようなものであって、そういうことを理解せずにガチでホウレンソウや会議に意味があると思っている管理職は完全に無能だ。そして管理職が無能だと職場が最悪になる。デジタルで事務的な仕事において管理職が果たす役割はほぼなくなったので、管理職は職場の環境を良くすることくらいしか仕事がないし、それが一番難しい仕事だ。

このように見てくると、会社は昔のいわゆる「会社」ではなく同好の志のサークルみたいになればいちばん良いのだろう。同じことをやっている人同士でなければ通じない話や、業界の深い話などを共有して技術を磨いていくために人が集まるのであればそれはサークルだ。日本の会社のように新卒一括採用でとりあえず人手を集めて、なんとなくいろいろな仕事をあてがって・・・というのでは、何もできない・何も詳しくないただの偉ぶるおっさんを量産して終わりになってしまう。サラリーマンの時代は終わった。これからはもっとネットやデジタルを活用して遊び、自分が詳しい領域を持っており、その同好の士で集まって仕事をするという感じになっていく(すでにそうなっている領域もたくさんある)。